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確報:金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告書 ~注記から読み取る開示強化に向けた企業の留意点~

2022.06.21

日本シェアホルダーサービス株式会社

チーフコンサルタント 藤島 裕三

©Photo by Tats

 

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)は6月13日、「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」と題する報告書[1]を公表した。同報告書はDWGが昨年9月から8回にわたって検討した内容を案[2]として5月23日に提示、同日の議論を踏まえて確定したものである。

 

確定版を案と比較すると、少なくとも本文に関しては大きな変更は見当たらない。比較的注意を要するのはサステナビリティに関する2項目(下表)で、「戦略」と「指標と目標」を記載しない場合の根拠、およびGHG(温室効果ガス)排出量の開示について、より積極的な開示を期待するトーンに変わっている。なお報告書全体の概要については、6月7日付の本欄「速報:金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告書(案)」[3]を参照いただきたい。

 

表:報告書案と同確定版における変更箇所(一部)

(色字・下線はJSS)

5月23日 報告案 6月13日 確定版
なお、4つの構成要素に基づく開示に関しては、「戦略」と「指標と目標」について、各企業が重要性を踏まえて記載しない場合、その旨開示する必要があるとの意見もあり、企業はこうした点を含めた開示を積極的に行うことが期待される。(6頁) なお、「戦略」と「指標と目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、投資家にとって有用な情報である当該判断やその根拠を含めた開示を積極的に行うことが強く期待される。(7頁)
同時に、我が国の上場企業等の業態や置かれた経営環境等が様々であることを踏まえると、GHG 排出量については、ただちに具体的な開示項目とするのではなく、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提とした開示項目とすることが適切と考えられる。(12頁) こうした状況に鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1・Scope2の GHG 排出量について、企業において積極的に開示することが期待される。(12頁)

 

今回の確定版における最大の特徴は、案の段階から注記が大幅加筆されたことである。特に「~との意見が(も)あった」「~との指摘が(も)あった」「~ことが(も)考えられる」と記載された事項は、今後のルール化やガイダンス化における重要な方向性を示すものと考えられる。以下、主要なトピックスごとに注目すべき注記を取り上げる。

 

 

1. 四半期報告制度の見直し

 

第1・第3四半期報告書を廃止して四半期決算短信に一本化する提言がなされているが、注記(27頁)においては「第2四半期も四半期決算短信に一本化すべき」といった意見、またそもそも「四半期開示を任意化すべき」との意見が新たに記載された。別の注記が示す「日本市場の情報開示が全体として後退することがないよう、また、後退したという印象を持たれることもないよう」注意しつつ、企業の開示負担軽減が今後のDWGで俎上となろう。

 

2. サステナビリティ情報

前述した本文における強いトーンへの修正に加え、「『戦略』と『指標と目標』についても、全ての企業に開示の義務付けをすべき」(7頁)、「国際的な流れを踏まえると、GHG 排出量についても開示を義務付けるべき」(12頁)と注記は一層厳しい要求を示している。また「人権の開示を進めることは重要」(14頁)など開示範囲を広げるべき旨に言及した注記も見られる。これらを鑑みるとサステナビリティ情報に関しては今後、グローバルな開示水準を意識した、より高い目線による議論が行われるのではないか。

 

3. コーポレートガバナンス情報

 

新たな記載欄として「取締役会、委員会等の活動状況」が提言されたが、注記においてはガバナンス開示として不十分との指摘があった。具体的には「リスク管理体制の整備状況・運用状況やその監督の開示も重要」(19頁)、「取締役会の実効性についても開示されるのが望ましい」(21頁)が挙げられている。開催頻度や出席状況といった形式的な情報に止まらず、企業価値に直結するリスク管理の取り組み、監督機能を強化する取締役会の実効性評価といった、より本質的なガバナンス情報の必要性が提起されるのかもしれない。

 

4. 有価証券報告書の開示

 

有報の総会前開示と英訳については、前回DWGの議論を確認した上で、漸次的な対応を期待するに止まっている。しかし注記(29頁)は総会前開示が「定時株主総会の基準日を事業年度終了から1ヶ月後又は2ヶ月後とすること」で可能であり、「そのような基準日を定める事例もある」ことを指摘した。また英訳について注記(37頁)は「英文にした情報については、企業がチェックを行いその内容に責任を持つことが重要」とする。すなわち既存の進め方に拘泥せず、必要な施策に責任を持って取り組むことが期待されている。

 

 

以上のように注記では、四半期報告については企業の負担が考慮されているものの、総じて段階的・漸次的な対応で差し支えないとも読める報告書本文について、決してミニマムな解釈に矮小化することなく、立法化などに向けた今後の議論を厳格に進めることを求めている。企業においても本文に書かれていることを文字通りに理解するのみならず、本来どのような開示そして取り組みが期待されているのか、原点に立ち返って考察を深めておくことが望ましいだろう。

 

[1] https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220613/01.pdf

[2] https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20220523/01.pdf

[3] https://www.jss-ltd.jp/esgrirc/report/196/

 

以上

 

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